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Takeo Ishii
Takeo Ishii
ライター、カメラマン、パフォーマー、射撃場アドバイザー、映画評論家
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2009年02月05日

『ベンジャミン・バトン―数奇な人生―』

『ベンジャミン・バトン―数奇な人生―』
(C)2008 Paramaount Pictures Corporation and Warner Bros.Entertainment All Rights Reserved.

<作品DATA>
監督:デビッド・フィンチャー
出演:ブラット・ピット、ケイト・ブランシェット、タラジ・P・ヘンソン、ジュリア・オーモンド、ジェイソン・フレミング、イライアス・コーティース、ティルダ・スゥイントン
2008年/アメリカ映画/2時間40分/原題:『THE CURIOUS CASE OF BENJAMIN BUTTON』/提供:ワーナー・ブラザース映画 パラマウント・ピクチャーズ/配給:ワーナー・ブラザース映画
2月7日(土)より全国ロードショー
www.benjaminbutton.jp

★★☆
●「後味悪映画王」のデビッド・フィンチャー監督がコレを撮ったとは驚き! 『フォレスト・ガンプ/一期一会』をパクった感が全編に漂うものの、“これは当たる!”と確信してしまった。ブラピ主演作では一番かも。ケイト・ブランシェットとティルダ・スゥイントン“悪魔系女優TOP2”の競演も◎。少しだけだが戦場描写が凄絶。

 えー、現在発売中のCOMBAT2009年3月号、P186の「石井健夫のシネマノート」の新作ミシュラン欄に、上記のようなコメントで『ベンジャミン・バトン/数奇な人生』を紹介している。今週末より公開なので、TV CFも盛んに流れている。「人生そのものが逆行」する男の物語。ブラピは今度の第81回アカデミー賞Ⓡ/主演男優賞にもノミネートされており、目下オスカーウィナー(受賞者)の最有力候補と目されている。他にも作品賞や監督賞など、主要13部門にノミネートされている話題作である。
とはいえ、実際に映画を観るに当たって“何々賞を獲った”だの何だのというのは、たんなる装飾というか、包装紙、他人の評価でしかない。ぼくのこのレビューもそう。貴重な時間を割き、安くない入場料を払うか? それともDVDになるまで、あるいはTVでやるまで待つか? その判断の一材料でしかなかろう。

 20世紀初頭のニューオーリンズ。街で一番の腕を持つ盲目の時計職人が駅舎の大時計を完成させたのだが、ナントそれは針が逆回転する時計だった。これは戦争(第一次大戦)で死んだ息子を取り戻したい・・・時間を逆に廻したい・・・とのメッセージ・・・というか「怨念」のこもった作品であった。
 時をほぼ同じくして1918年、街一番の資産家、バトン家にある子供が生まれた。出産の失敗で母親は死亡。その子供も80歳の老人のような容姿と身体で生まれ、悲観した父親は老人ホームの前に彼を置き去りにする。しかし親切な小間使いの夫婦に「奇妙な養子」として迎えられ、彼=ベンジャミンはそこを家として成長する。
 老人ホームなので当然、周囲は老人ばかり。せっかく仲良くなってもみんなは次々と、順番にこの世を去っていく。また彼自身も“自分は独特な、とても変わった人間だ”と早くから自覚し、つねに孤独を味わいながら生きるのだが、様々な運命的な出会いが成長とともに若返っていく彼の人生を通り過ぎ、影響を残していく・・・といったストーリーだ。設定からしてほとんどSFであり、ファンタジーである。しかしセットや雰囲気、人々の語る台詞の内容や時代背景には、アメリカの20世紀史が凝縮されていて波瀾万丈、長い映画だが退屈することはないだろう。
 当初こそ「老化病」だと思われて、そう長くは生きられまい・・・と育ての親や老人ホームの人たちから哀れみの眼で見られていた主人公=ベンジャミンだが、日に日に「若返って」いく描写が愉快だ。
 やがてじっとしていられなくなった彼は船長が酔っ払って判断力が鈍っている時を狙って頼み込み、タグボート船員の職を得る。時代は第二次世界大戦前夜。船ごと旧ソ連の「ムルマンスク」に赴任したベンジャミンは。雪と氷に閉ざされたホテルで人生を諦めかけ、退屈しきってしまった英国情報部員の妻(ティルダ・スゥイントン)と深夜の不倫を経験するも、いきなり船長が連合海軍への協力を表明。この後のドイツ潜水艦Uボートとの夜間の海上銃撃戦シーンが結構凄くて、驚いてしまった。.50キャリバーや.30モーゼルとかで超遠距離で撃ち合う感じがとても迫力があり、また本来戦闘仕様ではなく装甲等もその場しのぎのタグボートではアルミホイルのようにプスプス弾が貫通してくる描写が良かった。
 老人の姿をした子供時代からベンジャミンの本質を見抜いた知り合いでダンサーを志す幼なじみのデイジーを演じるのは名女優=ケイト・ブランシェット。本格的なバレエの下地もある彼女の舞踏シーンは「何歳の設定」でも夢のように美しく、見とれてしまう。ベンジャミンが老人の外見から人生を逆にたどり、壮年、中年、青年さらには子ども、赤ん坊に至る一方、デイジーは少女から17歳、20代、40代、中年となりやがて皺しわの老女となって死を迎えるまでのメークアップというか、CG技術の凄さには息を飲むほどの凄さがある。まあ、若い俳優が老けメイクを披露する映画、といえば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の他、たくさんあったが、実年齢40代のブラピやケイト・ブランシェットの「17歳」「15歳」の映像というのはまさに驚嘆である。理想化されたその美しさはゾクッとするほど不気味でもある。
 ベンジャミン・バトンの数奇で長い生涯がほぼ時系列的にだどられるのを主流とし、なお周囲の人物たちの細かいエピソードがあちこちに散りばめられた手法もまたユニークだ。どの人物も非常にキャラが立ち、あの人はどうなったのかな? この人は? と気になったり、あるいは忘れかけていたような所で主流であるベンジャミンの話に絡んできたり・・・と、緩急の具合が良く・・・というか、まあ、ぼくの鑑賞のペースにはピッタリはまっていたのだと思う。人間の生と死の深淵。愛や業。そして何よりも、「どんな人でもオンリーワンな存在であり、誰の人生もじつは数奇な人生なのだ」という、作者の確かなメッセージが全編を貫き、切なさや哀しみのスパイスもやや効いた、しかし爽やかな気分で試写室を後にした。

 ただ、COMBATに書いた寸評の繰り返しになるが、ある種のハンデキャップを背負った主人公、「20世紀アメリカ小史」といった趣のストーリー展開、派手系SFではないのにCGを多用した映像などなど、何となくボヤーっと全体的に『フォレスト・ガンプ/一期一会』をパクってる・・・という印象になってしまっているのは否めない。
 オリジナリティを感じるとすれば、この作品を撮ったのが「後味悪映画王」デビッド・フィンチャー監督だという事。これは映画ファンにとっては驚くに値する事件だろうと思う
 なんてったって、あの『エイリアン3』の冒頭でニュートとヒックスを惨殺! あろうことかラストにはリプリーに自殺させ、シリーズを危うく終わらせかけた御仁ですぜ! その後がブラピと組んだ出世作の『セブン』。これは言わずもがな、「最悪バッドエンド映画の金字塔」である。
 そしてフィンチャーが2度目にプラピと組んだ『ファイトクラブ』も確信犯。若い婦女子が“ブラピぃ~♪”とやたらそのイケメンぶり、美男子ぶりをもてはやしていた時代に、例えば「バイトしているレストランの厨房で、客に出すポタージュに小便を混ぜる」とか、「吸引手術で患者から抜き取った脂肪を整形外科から盗み出し、高級美容石鹸を作る」といった素行をする、極めて不道徳で暴力的な男をブラピに演じさせ、女性観客を思いっきり「引かせ」たりと、このコンビの「罪状」は計り知れないのである。
 『ゲーム』、『パニック・ルーム』、『ゾディアック』。
 フィルモグラフィーにも「無毒な映画」がほとんどないフィンチャー監督だけに、この『ベンジャミン・バトン ―数奇な人生―』が非常に風変わりで若干グロテスクながらも、基本はヒューマンでハートフルな、前向きな人生賛歌として完結した。そのこと自体がとてもズルイというかやっぱり確信犯では? とぼくは思ってしまうのだった。怖い怖い、不気味不気味・・・と思っていた人が、たまぁ~にちょっと話してみたら普通な人生観を持っていて、笑顔も素敵に感じた・・・とまあ、そういう事を、映画が好きで詳しい人=フィンチャー作品を良く知る人ほど感じてしまうようになっているのだ。
 過去の業界への貢献度からいってもブラピの主演男優賞はよしとしよう。特殊効果とメイク、これも本作以上に相応しい作品はなかろう。でも作品賞と監督賞は、ちょっとズルくね? なくね? というのが、ぼくの現在の率直な心境である。それに今度の第81回アカデミー賞Ⓡ、対抗馬がかなりの強敵ぞろいなのだ。
 いずれ公開順に、その作品たちについてもレビューをここで書こう。
 
  ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 さて、以下は’08年12月16日~’09年1月31日までに試写や、自腹で劇場で観た新作のリスト。COMBATシネマノートの「新作ミシュラン」と星の数が多少違っているかもしれないが、作品への評価は時間やその前後に観た他の映画(TV等も含む)との比較、さらにぼく自身の体験と共に変化する価値観に左右されるものだから・・・と思って頂きたい。とはいえ劇場に足をお運びになる際の参考にして頂ければ、映画評論家の末席に座る者としてこれ以上嬉しい事はない。


『地球が静止する日』
公開中
http://movies.foxjapan.com/chikyu/

『フェイク・シティ/ある男のルール』★★☆
2月14日(土)全国ロードショー
http://movies.foxjapan.com/fakecity/

『ザ・クリーナー/消された殺人』★☆
2月7日(土)銀座シネパトス他

『ディファイアンス』★☆
2月14日(土)よりシャンテシネ他
http://defiance-movie.jp/

『その男 ヴァン・ダム』★★☆
公開中
http://vandamme.asmik-ace.co.jp/

『マンマ・ミーア!』★☆
公開中
http://www.mamma-mia-movie.jp/

『チェンジリング』★★
2月20日(土)より、日劇3ほか
http://www.changeling.jp/

『プラスティック・シティ』
3月、「ヒューマントラストシネマ渋谷」、「新宿バルト9」ほか
http://www.plasticcity.jp/

『パニッシャー:ウォー・ゾーン』★★
4月18日(土)新宿ピカデリーほか
http://www.punisherwz.jp/

『バーン・アフター・リーディング』
4月24日(金)全国ロードショー
http://burn.gyao.jp/

『スラムドッグ$ミリオネア』★★☆
4月、シャンテシネ他 全国順次公開
http://slumdog.gyao.jp/

『パッセンジャーズ』★☆
3月7日(土)、日比谷みゆき座他
http://www.passengers.jp/

『ワルキューレ』★★
3月20日(金・祝)日劇他にて全国ロードショー
http://www.valkyrie-movie.net/

『フロスト×ニクソン』★★☆
3月28日(土)、シャンテシネほか全国ロードショー
http://www.frost-nixon.jp/





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